無題
2024-10-05 16:04:47
言葉とは不思議な力を持つ。彼自身にそういった力は存在しないが、世の中には言葉に力を持つ人間も存在しているようだ。それは、ただ使用者の言葉を耳にするだけで、すっかり体を支配されてしまうらしい。
――例えば、そう。今の彼のように。
ぱらぱらと視界の端に映る自身の黒い髪にひとつ、溜め息を吐く。ほう、と口から溢れ出た重苦しいそれに、付き添いと称して連れ回されていたアウディンが「ぅ、」と声を上げたのが聞こえた。普段陽気な表情を浮かべる彼の顔には、一筋の汗が伝う。緊張から強張った体はゆっくり、ゆっくりと後退を選んだ。
反面、男を襲ったそれは片手に愛刀を携えながら男を見下ろし続ける。黒い強膜に一面金に染まった瞳。どうにも虫の居所が悪いのか、酷く不機嫌そうな顔をして、首にあるそれに手をかける。